跳べ!ロックンロール・ジーニアス【 第15話 】

音楽ドキュメント・ストーリー: 2500バンドの頂点、ついにオーディションで優勝
Contents
跳べ!ロックンロール・ジーニアス
1980年代に巻き起こった 原宿歩行天バンドブーム の真実
【 第15話 】 グランプリ!
〔追いかけ続けた夢に、ついに追いついた〕
「エピキュラスから中野サンプラザへ、栄光の切符を手にするバンドは!」
ドラムロールが鳴りひびいてスポット・ライトがステージをあおる。
ドルルルル・・・・
「・・・・・」
「・・・・!?」
「エントリー ナンバー 20 ロックンロール ジーニアス!!」
「え?」
司会の声に飛び上がった。
「・・! うそ、マジ?? ・・!!」
「ああああ」
待ち続けていた瞬間ではあったけど、まさか・・ いや、実現すると思ってたよ。自信満々だったし・・でも。
ほんとのホントーに実現してみると、何だか まだ フワフワ してリアリティに欠ける。絶対に超えられなかった、壁。オレたちの限界を飛び越えちゃったんだけど実はチープな夢オチだった、とかさ。
でも これは現実なんだ。
映画や小説なんかじゃなく、自分の手の中に転がり込んだチャンス。レイ ギャングは ベストベーシスト賞、クイーンは ベストキーボード賞も貰った。いかに奴らが「花」のあるプレイヤーだったかってことだろ?
「どうですか? 今の気分は」
「ウーン」
しばらく間が出来ちゃった。声が出て来ない。色んな想い出が、映像になって流れて・・・・
「やっと・・・やっと ここまで来ました」
胸がいっぱいで、それだけ言うのが精一杯だ。行けるんだ、もっと大きなステージへ。見晴らしのいい場所へ。
それから サンプラザへ行く 代表何バンドかが呼ばれて、写真撮影をした。ここからは雑誌に載ったり、TV放映があったりするからね。宣伝用の写真を撮った。
「そういえば君たち、去年も出たでしょう?」
ヤマハのスタッフが覚えていたみたいで、「去年の応募書類があったなぁ」って、ごそごそ机の中をかき廻して
「ああ、あった。これこれ」
って見せられたの。去年の写真。
今はもうやめちゃったメンバーが映ってる。
「・・・・・」
懐かしいけど、やっぱり変だ。今年、冷静になって改めて見てみると、去年と今年。
やっぱり明らかに違うなぁ。去年は落ちて、今年受かった。一言では言えないけど、写真の中に その答えがある。
あと、ドキッとさせられたのはね、応募書類。
年齢の欄が、実年齢になっていて。今年の方がオレたち若いんだよ。
バレないかと思って、ヒヤヒヤしたよ。
「このカタログの中から、好きなギターを選んで」
ヤマハの楽器カタログを渡された。
「?」
スタッフの言葉に首をかしげていると、
「中野サンプラザは TVに映るでしょう? 君たちが、ギブソンとかリッケンを持ってるとうまくないんだ。モニターとして提供するから、うちのを使ってよ」
そこにいたミュージシャン達が、「うわっ」っとカタログに群がった。
「俺、これ このギター」「うわっ、欲しかったんだ。アクティブのピックアップのついてるヤツ」
興奮して、口々に叫んでいる。
プロなんかでは よくある話。楽器メーカーが、ミュージシャンに無料で楽器をあげる代わりにマスコミに出た時なんかは、メーカー名がわかるように目立たせる協力(宣伝)をする。
「カッコいい。なんか、扱いが一流のミュージシャンみたいですね。俺たち」
選ばれたバンドマンたちは、得意気にお互いをたたえ合い、特権を享受した。
「細かい調整とかは、うちのテクニカル スタッフが対応するから。チューンナップしたり改造する部分のある人は、早目に言ってね」
まさに至れり尽くせりだ。選ばれるってことは、こういうことなんだね。
新品のヤマハの楽器を貰って。チューンナップもバッチリ。気力も充実。2500バンドから選ばれた20組が関東甲信越大会へと駒を進める。
いよいよだ。
中野サンプラザ――――
当日、ジーニアス ファンの長蛇の列が出来た。
中野サンプラザをぐるっと取り囲んだ。
憶えてる? はじめて高円寺にスタジオが出来て。屋上から見えるサンプラザを指さして、誓ったんだ。
「いつか、近い将来 必ずあのステージに立ってやる」
その日がついに来た。
ただ・・・
トモコ チビ太はステージにはいなかった。
客席にいたの。
オレ、チビ太を切り離したんだよ。
あいつは、オレたち「芝居出身者」の身替わりとなって、やめていったんだ。
コンテストで勝ち進んでいくなかで、バンドは 芝居の匂いを消して、純粋に音楽として評価されたいと願っていた。オレは踏み絵をしたの。チビ太を残して、バンドの不協和音を抱えながら戦うか。それとも 切って。・・・
バンドとしてまとまるか? 二つに一つしかなかった。当時のバンドの空気。
グループでまとまるために、誰かが犠牲にならなければならない。ベストな状態が作れなければ、これ以上 上は狙えない。そういう状況だ。
オレは優柔不断で、非情に徹することも出来なければ、チビ太を擁護する立場にも立てずに右往左往するだけ。
「あたし、やめますよ」
白い顔をして、チビ太が自分からそう言ってきた時、オレはただ 「うん」と、うなずいたんだ。ひどいヤツでしょ? バンドの原動力となって、バンドを一緒にここまで成長させてきた、仲間だよ。その大事な仲間を、オレは切ったんだ。
チャンスと背中合わせの危機を、バンドは抱えていて。芝居の象徴としてのトモコを切ることで、パフォーマンス集団からの脱出をはかった。フッ、そんな「きれいごと」じゃない。オレたちのやったことは。説明すればする程、理不尽な話さ。
それなのにバンドをやめて、アイツ・・・・
ファンと一緒になって、客席でデカい旗をふって応援してくれていた。
ファンと合宿して、先頭に立って応援の構想を練ってくれたんだって。
うれしいけど・・・ せつない話だよ。アイツには借りがある。今でもそう思っているよ。いつかその借りを返したいと思って、こんなに歳を重ねてしまった。でもまだ思ってる。いつかきっと・・・
コンテストの順番、一番最後だったからさ、待って、待って、待ちくたびれて やっと。順番がきて。
「ドッカーン!」
派手にぶちかましてやった。
実はオレ、何日か前のライブ パフォーマンスでスピーカーから飛び降りて。この時、左足のカカトにひびが入って、ステージどころじゃないんだけどね。そんなこと言ってらんない。ここまで来たら、関係ないよ。
ステージに出たら、ど迫力。客席が壁みたいに迫ってきて、「うわっ」って圧倒されそうになる。2階から3階から、人のエネルギーが降り注いでくる感じ。薄暗いバック・ステージから、まぶしいスポットライトだらけの表舞台に躍り出た。もう何にも見えない。足がガタガタふるえる。
おまけに モニタースピーカーの前を離れると、まるっきりお互いの音が聞こえないんだ。勘だけが頼り。
怖い。
オレ、声が裏返ったりしてた。息が上がっちゃって。まるで歌えていない。
すごいプレッシャーと戦いながらやってたなぁ。客席を見るとたくさんのファンを引きつれて、チビ太がいる。動き廻って苦しくって、喉がカラカラに渇いたけど、 そんなこと言ってられない。必死に我慢してやってた。
出来としては、けっして納得いくステージじゃなかったけど。
「さあ、2500バンドの頂点に立つのは、どのバンドか!? スーパー エクスプロージョン バンド だけが、栄光の武道館でのファイナル ステージに進めるのです!」
ドキ ドキ ドキ ドキ ドキ 祈るように目をつぶった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
パアーッと、オレたちにスポットライトが当たった。
「おめでとう! ロックンロール ジーニアス」
客席がわいた。TVカメラが、オレたちに向けられる。オレの体の真ん中でビックバンが起こり、全身がしびれて スパークした。
だって、武道館だよ? 日本代表だよ。何万というバンドの中から 選びに選び抜かれた数バンド。その中にオレたちがいる。
「ウソだろう?」って気分が半分。「当然だよ」って思いも半分ぐらいはあった。
後でヤマハの人に、各審査員のコメントが書いてある採点シートを見せて貰ったけど、
「スゲー!」
「これでも素人か」
っていうようなコメントが いっぱい書いてあった。ウレシいよ。やっと オレの「動く バンド」が完成し、評価されたんだ。
でも、ちょっと「残念なこと」がひとつ。
グランプリ バンドがもう一組、選ばれた。オレたちの他にもう一バンドが武道館へ行く。
関東甲信越大会というのはポプコンの時代から激戦区で、二組のグランプリを出すのがならわしとなっていたんだ。
オレはそんなこと知らないから地団駄踏んで悔しがった。
冗談じゃない。最後までやらせてくれ。白黒つけて一組に絞り込んで欲しいと切望した。自信があった。全てをけちらして進んでいる実感がある。ま、そんな事言ってもオレたちにはどうすることも出来なくて。グランプリはオレたちと、もう1つのバンドが受賞したんだよ。
レベッカのノッコが、優勝のトロフィーを渡してくれたんだけど、失敗した。オレが受けとればよかったんだけど、マコトにゆずったんだ。
「せっかくだから、お前行けよ」
晴れがましい席だし、喜びを皆で分かち合いたかったの。
でも また、マコト特有の「こだわり」が出ちゃって。
「俺はロックミュージシャンだから、芸能人なんかに びびらねぇぜ」
ってふてくされて ポーズつけちゃったんだ。せっかく「おめでとう」って言ってくれた、ノッコを無視する形になっちゃって。
「・・・・・」
その場の空気がしらけた。
ノッコ、ちょっと怒ってた。この場を借りて謝ります。ゴメンナサイ。
コンテストの後、銀座のヤマハ東京支部に呼ばれて。
食事と酒をおごって貰ってね。
「外人バンドに勝てる スケールのデカさを持ってるのは、ジーニアスしかいない。日本人では、まだ世界大会の優勝者はないから、是非ともガンバって欲しい」
って、ヤマハの人たちも期待してくれてさ。
「次は、武道館だよ。世界中の国を代表するバンドが出てくるんだ。どう? 自信ある?」
とスタッフが言った。
「もう 矢でも鉄砲でも持って来いですよ。次は 世界一を目指せばいいんでしょう?」
そうさ、世界一になってやる。
アマチュアで武道館を踏めるバンドは・・・・そうそうはいないだろう。
オレは、ヤマハの人たちがついでくれる酒をあおりながら、未来の扉が開く音を 確かに聞いた。
= つづく =

当時の若者向け雑誌や新聞、音楽雑誌などにはほとんど バンド・エクスプロージョンの大会告知が載っていた。そしてその出場バンドにジーニアスの写真が・・・
バックナンバー
【 第13話 】 企画ライブ「 金網越しの DOWN TOWN 」
【 第14話 】 「SHOGUN」のMr.ケーシー・ランキン